【特集】初級の授業をする際に大切なこと

日本語学習者の中には、様々なレベルの学習者がいます。

ひらがなもまだ読めない入門レベルから、

基本的な日常会話は難なくできる中級レベル、

日本語能力試験N1に合格できるレベル・・・

そして、指導者はその各段階に応じて授業を行う必要があります。

そこで今回は「みんなの日本語(初級Ⅰ)」程度の初級レベルを学んでいる外国人学習者を

教える際に大切なポイントをまとめました。

授業の組み立て方

まず、授業は『導入⇨展開⇨まとめ』という流れが一般的です。

『導入』は、目標の言語を提示する前に行うものです。

 

『導入』を終えて、学習者に「目標」を持たせ、その目標のために学ぶことが

次の『展開』となります。そして、最後の『まとめ』になります。

 

つまり、『導入』は学習者にとっての未知の言語であり、

『展開』は習得するものであり、『まとめ』で完成(確認)となります。

 

小学校や中学校では、この流れで1時間(1コマ)の授業が進んでいきますが

日本語学校の場合は、1コマあるいは3〜4コマ連続している中で

『導入⇨展開⇨導入⇨展開⇨導入⇨展開⇨まとめ』

などのように、多くの導入と展開がなされるケースがほとんどです。

そのため、日本語教師は他の教師と比べ、「導入」「展開」のバリエーションを増やし

学習者に飽きさせない工夫も必要となってきます。

授業の導入

自分の小学生の頃を思い出してください。

思い出に残っている授業の最初(導入)のシーンは浮かんできませんか。

 

地球儀を持ってきた先生が、「世界は丸いんだよ。」と教えてくれたとき

「え?でも(世界)地図は丸くない!」

「地球は日本のことでしょ?」

「飛行機に乗るのは地球以外の国に行くためでしょ?まさか、違うのかな?」

という衝撃的事実・・・(笑)

 

理科の授業で「雨の水はどこからやってくるのでしょうか。」

という問いに「考えたことなかった。どこなんだろう!知りたい」

というワクワク感・・・。

 

大きな巻物に書かれたイラストを指して

「かくれんぼしているよ!見つけてごらん。」

と言われた小学校1年生の時の

楽しい感じ・・・。

 

覚えている授業というものは、楽しい始まりがあったはず。

これは、大人になっても誰もがどこかに同じような感覚を持っているもの。

「楽しそう」「不思議だな」「やってみたい」は学習意欲に直結します。

 

ただし、日本語教師は言語を教える職業。

そして、初級レベルの学習者が対象となると使える語彙も限られてくる。

だからこそ、日本語教師は頭をひねらせて、思考思考思考そして錯誤を繰り返すのです。

 

初級レベルの学習者にはまず「どう言うんだろう…知りたい」「何だか楽しそう」

思わせることのできる導入を目指すことから始めるといいと思います。

 

では、どんな導入がいいのかというと

例えば(みんなの日本語:13課「〜Vたいです」)

『試験中トイレに行きたそうに我慢している人(イラスト)』

を提示して

T「暑いですか。」

S「いいえ、暑くないです。」

T「楽しいですか。」

S「いいえ、楽しくないです。」

T「何ですか。」

S「・・・。」

S「辛いです。」

T「どうしてですか。」

S「トイレ」

S「トイレへ行きます。」

T「試験です。ダメです。」

S「ダメです。トイレへ行きます。」

 

と学習者とのやり取りを行い、「なんて言うんだろう」と思わせてから

T「トイレへ…行きたいです。」

と、例文を挙げます。

 

 

導入で例文をあげるときのポイント

①なるべく既習の語彙を使い、文型に集中させる。(その課の新出語彙は避ける)

②例文は3つ程度挙げる。(1つだと間違えて解釈をした学生が混乱してしまうため)

③できれば、学生が日常でも使えそうなものを考える。(言語習得に必要性を持たせる)

 

上で挙げたように例文を出す際にイラストを活用することで

少しでも「楽しそう」をプラスして学習へのモチベーションを持たせることができます。

もちろん、イラストを使用せず

「こんな時はどうする」と学生自身のことから例文に導いても、

そのやり取りが学生にとって「楽しい」となれば

どんどん盛り上がり、展開に繋げることができます。

授業の展開

導入を終え、今から学ぶ文型(「目標」)を設定した後は

その目標に向かって習得する作業を始めます。

 

この授業の展開が、1時間のうち多くの時間を占めるものとなります。

本当にまだまだ日本語もままならない学習者には

教師が言ったことをリピートさせることが大切です。

発音がきちんと出来ているのか確かめる必要があるので

一人ずつ発音を確認していくことも時には重要です。

 

さらに、「〜なければなりません」のように

長い文型においても正確に言えているか一人ずつ確認しても良いでしょう。

 

そして、文型を自分で使えるようにしていきます。

例えば、(みんなの日本語:6課「〜を〜V」)

『冷蔵庫のオリジナル教材(扉を実際に開け閉めできて中から食べ物(イラスト)が取り出せる)』

を用いて

T:「(ジュースを取って飲むふり)ジュースを飲みます。」

S:「ジュースを飲みます。」

T:「(お茶を取って飲むふり)」学習者に言うように促す。

S:「お茶を飲みます。」

T:「(果物を食べるふり)」

S:「果物を食べます。」

T:学習者に前で実際にやるように促す。

S:「(魚を取って)魚を食べます。」

S:「(肉を取って)肉を食べます。」

S:「(牛乳を取って)牛乳を飲みます。」

と、実際に学習者にアクションをさせながら言わせる活動をすると

「あ、ちょっと楽しい。」

「これなら簡単に言える。」

と思えるようになります。

そこから、少しずつ過去形や時間表現なども取り入れていろいろな形で言えるようにしていきます。

展開は同じことの繰り返しになったり、間延びしたりしてしまうことの無いように

常に一つでも「楽しい」を取り入れよう!という姿勢と熱意で行いましょう。

冷蔵庫の作り方

①大きな画用紙を縦に2枚並べて後ろをテープで留める。

②上の画用紙に冷蔵庫の枠と棚を書き込む。(立体がいい人は奥行き感も書く)

③さらに大きな画用紙1枚を上の画用紙の縦に貼り、扉のようにする。(開け閉め可能)

④ドアを開けた状態のところにドアポケット用の切った画用紙を2枚貼。(出し入れできるように)

⑤食べ物や飲み物のイラストを形に沿って切り、食べ物はテープを輪っかにしたものを貼り取ったり、貼ったりできるようにする。飲み物は、ドアポケットに収納する。(ドアポケットは、2リットルペットボトルイラストなどが収まるように事前に計算しながら固定すると良いです。)

⑥下の画用紙(ドア無し部分)に冷凍庫の扉を飾りとして書いておく。(最初見た時に冷蔵庫と分かるように)

(ポイント)

・イラストは、色付きが見やすいです。食べ物、飲み物イラストは作成中なので描けない方はお待ちください。

・筆者は2〜3時間(イラスト描くのも含め)かけて作りました。大変でしたが立派なものができました。

・最初に冷蔵庫を出した時「すごい!」と思ってもらえました。これも学習意欲に繋がったと思います。

・6課以外にも、工夫すればいろいろな文型に活用できるので重宝します。

アクティビティの活用

授業が単調になりそうな日、また、いろいろな文型を学習した後の復習として

アクティビティを取り入れることは、とても有効的です。

アクティビティの例

・キャッチボール(ボールを使った会話ゲーム)

・並んで誕生日(誕生日の順に並ぶゲーム)

・ジェスチャーゲーム

・背中に書いて(背中に書いて当てるゲーム)

・漢字を作ろう(一人一画ずつ書いて漢字を作るゲーム)

・カタカナどんどん(カタカナをたくさん書くゲーム)

・ビンゴ(お題は様々)

・漢字しりとり(漢字だけでしりとりをする)

・私はだあれ(プロフィールを書いてもらい当てる)

・震源地(誰が震源地か当てる)

・ドンジャンケン(陣地を奪い合う)

・当てっこ自己紹介(誰かになって自己紹介をする)

・まちがいさがし(間違いを言う)

・探し物はなんですか(どこにあるか伝える)

・すごろく(サイコロを振ってゴールを目指す)

・線路は続くよ(ジャンケンをして負けたら繋がる)

・足して10(お題の数になるように数を足す)

・メモリーゲーム(言葉をどんどん増やしてながら回していく)

・進化じゃんけん(ジャンケンして勝ったら進化、負けたら衰弱)

・くだものバスケット(一人が果物名を言い、その果物の人だけ移動する)

アクティビティはアイディア次第でいろいろな学習項目に取り入れることができます。

目標を設定して、どんな文型をどのように面白くアクティビティとして活用できるか

考えてみてください。

自分が「楽しそう!」と思えたら、やってみましょう。

その際は、ルール説明も細かく丁寧に考え

「どうやったら簡単にかつきちんとルールが伝わるか」ということも念頭に置いて作りましょう。

クラス作り

大体の日本語学校はクラス制になっていると思います。

 

ここでも自分の学生時代を思い出してみてください。

「学校が楽しい。友達といて楽しい。」と思えることで

学習意欲も増加します。

 

逆に、「学校が嫌いだ。行きたくない。つまらない。」となってしまえば

学習も手につかない上、不登校あるいは遅刻、授業中の居眠りに繋がります。

 

日本語学校も学校ですから、

一人一人の学習者(学生)がクラスって楽しいと思えるクラス作りが大切です。

 

どうしたらクラスが楽しいと思えるようになるかは、

「授業」に大きく左右されることは間違いありません。

 

教師の一方的な解説や説明が長ければ長いほど

学習者の発言の時間は短くなります。

学習者の発言の機会が奪われ、ペア活動やアクティビティの時間がなければ

「あれ、一番後ろの席の人の名前は?」

と、1ヶ月過ぎても、そのよう学生がちらほら出てきてしまいます。

 

つまり、学生同士の交流がない

これは互いを知る機会がない。

いつも同じ国の人と一緒にいる。

果てや、派閥ができたり、久しぶりに発言や発表の機会があっても

緊張して話せない、などの事態に陥ってしまうことさえあるかもしれません。

 

それでは、学校は楽しいものではない、のです。

 

ただ座って聞いている授業ほどつまらないものはありません。

注意したいのは、いつも自由発言をさせてしまうことです。

話したいけど、話せない学習者もいますので、指名してきちんと

公平に話す機会を与えてあげましょう。

 

そして、「間違いが当たり前」のクラスは素敵だと思います。

正解が不明瞭な質問なども取り入れて

たくさん間違えを導き、「そんな答え分かりません!」ワハハ

となれば、思うツボです。

 

間違えを臆することなく発言できる、

そして、一人一人が安心してクラスにいることができる雰囲気

学習へのモチベーションにも繋がります。

まとめ

初級の授業をする際に大切なことは

①導入は「楽しい」「どう言うんだろう…知りたい」と思えるように。(目標設定のために)

②展開は飽きさせない工夫が大切。(まずは「簡単だ」「できる」と思わせてから複雑なものへ)

アクティビティを取り入れる。(授業が単調になりそうな時、総復習の際に)

楽しいクラス作りをして、学習意欲をもたせる。

 

授業づくりは大変ですが

「日本語を学びたい」「日本語で会話したい」「日本に興味がある」「日本で働きたい」…

そんな学習者のたくさんの想いや希望を受け止めて、頑張りましょう。

 

▽「初日の授業」にこれから挑む方におすすめです。

日本語教師の教案【初日2】

2019年4月14日

日本語教師の教案【初日】

2019年4月9日